• 2017.02.12
  •   遺されたもの






    金曜の夕方、実家の母から電話があり、




    「〇〇さんが死んでしまった・・・」




    金曜の朝、見知らぬ人の民家の倉庫で
    冷たくなっていたところを発見されたらしい。



    認知症がだんだんひどくなっていたので、
    自分の家に帰れなくなったのかもしれない。



    〇〇さんは小さい頃から近所に住んでいて、
    母より5歳年下の男性。



    20年前に私の父が亡くなった時以来、



    「お父さんにはお世話になったから」


    と、一人暮らしになった母のよき友人として、
    いろいろと気にかけてくれていた。



    母が一人暮らしをしていても、


    「ま、何とかやってるでしょう」


    と、私があまり深刻にならないのも、
    この男性の存在が大きかった。




    生涯独身で、大の読書家。
    曲がったことが大嫌いで、それが災いしてか、
    若い頃に公務員の職を捨てた。



    気の強い母と頑固な〇〇さんは、
    しょっちゅうケンカをしていた。



    ケンカをするのだけど、いつも一緒にいた。



    会うたびに、



    「美穂君、元気か。」



    私のことを美穂君と呼ぶ、ただ一人の人だった。




    かなり昔に両親を亡くされ、
    それから間もなく、姉も亡くされた。
    そして数年前には弟さんも亡くされてしまい、
    家族がみな、いなくなってしまった。

    その頃から少しずつ、精神が不安定となり。



    弟さんが遺した5匹の猫を引き取り、
    遺言通り、ずっと面倒を見ておられたけれど、
    この数年、認知症の症状が悪化してしまい、
    猫の世話どころではなかったようだった。

    母を始め、民生委員や周りの人たちが心配して、
    今月中に施設に入る段取りをする予定だった。



    その矢先の、突然の死。


    都会に住む、唯一人の甥っ子以外、身寄りがない。


    昨年末、自動車免許センターへ行くと言って
    家を出たあと、道がわからなくなり、益田で
    ガス欠で道路を歩いているところを保護された。


    その時も、母が引受人として警察まで迎えに行った。
    その関係で今回も母が警察に呼ばれ、
    遺体安置所で身元確認を求められたという。



    母から電話があってから、すぐに実家に行き、
    亡くなる前後の様子を聞いた。

    つい前の日に、彼に数日分のご飯を作って
    渡したばかりだったという。



    母のショックも相当なものだった。



    私は、先月、バス停で待つ〇〇さんの姿を見つけ、
    車で家まで送り届けたのが、会話をした最後となった。





    彼が飼っている猫たちは、家主のいなくなった家にいる。
    誰も面倒を見るものがいなければ、餓死してしまう。


    〇〇さんが亡くなってから、
    捜査のために家の中に入った
    担当の刑事に、猫の保護をしなければ
    ならないことを伝えると、



    「猫がいたのは確認しています。
    ですが、民事不介入という決まりがありまして・・・。
    私たちは、ペットが遺されていることがわかっていても、
    何もしてはいけないんです・・・。

    こうしたケースは時々ありますが、その後
    ペットがどうなったかは私たちにはわかりません。」



    餌だけでもあげに行きたいので、
    鍵を開けてくれないかと頼むと、



    「それもできないんです。ご家族ではない方が、
    勝手に家に入ることは認められないんです。」



    「じゃ、刑事さんがささっとドアを開けてくれて、
    そのすきに、私がドアの外から部屋に餌を
    投げ入れるっていうのは?それでもだめなの?
    このまま家の中に猫たちが閉じ込められていたら
    死んでしまうしかないですよね?」



    何度かそんなやりとりをしているうちに、
    若い担当の刑事さん、



    「では、小豆澤さんの方で、甥っ子さんに
    電話をしてもらい、鍵を開けて中に入る
    許可をもらってもらえますか?
    許可が出れば、私が一緒に家の中に入ります。」



    それから待つことしばし。



    やっと甥っ子と連絡が取れ、
    猫の餌をやりに行くことに。



    その電話の際、今後の猫の行く末についても話した。
    甥っ子さんは猫を引き取ることはできないという。



    このまま、無人となった家で猫に
    餌をやり続けることもできない。



    〇〇さんが大事に育てていた猫たち。
    保健所で殺処分など、彼が望んでいたはずはない。


    猫たちだけが、唯一の家族だったのだから。




    猫たちの健康状態も、病気の有無も何もわからない。
    ともかく、様子を見に行き、餌を与えるのが先決。




    若い刑事の車で、途中で餌を買い、〇〇さんの家に向かう。



    「お話しておきますけど、家の中はかなり荒れているので、
    土足で上がってください。これ、靴の上にかぶせてください。」



    そういって、テレビのニュースで見る、
    鑑識が履く、ビニールの靴カバーを渡された。



    家のドアを開けた途端、強烈な悪臭が漂う。



    部屋の中の惨状は想像を超えていた。




    認知症はかなり進行していたとみられる。
    そんな中で、猫たちは生きていた。



    こちらを警戒して、どの猫も逃げ回る。



    取りあえず、餌と水、トイレの砂をセットした。
    若い刑事も一緒に手伝ってくれる。



    部屋の中のあまりの様子に言葉も出ない。
    刑事という仕事とはいえ、こうした現場を
    よく目にするという彼、慣れるものなのか。




    「まだ、冬だからいいですよ。
    夏は・・・。一人暮らしのお年寄りが、
    自宅で亡くなられてると・・・。」



    まだ25、6歳の彼。




    「辛いよね・・・仕事とはいえ、こんな現場・・・。」



    「そうですね・・・この仕事に就いてから、
    親を大事にしなきゃな~って思います。」



    万年床の毛布は〇〇さんがくるまっていたであろう、
    そのままの形になっていた。



    部屋を見渡しながら、〇〇さんが
    亡くなってしまったことが私の中で
    少しずつ現実となっていった。




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